キンモクセイの管理~開花~
[2021.10.01]
●営農技術指導員 大澤梅雄●
質問
去年(2020年)はいつになくキンモクセイの花付きが良く、しかも、香りがいつまでも漂ってきました。どうしたのでしょうか。
回答
私もいまだかつて経験したことがないほど長期間、香りが漂ってきたことに驚きました。
振り返ってみますと、キンモクセイの香りが漂ってきたのは10月10日でした。そして30日間ほど続きました(写真)。例年ですと開花は10月3日前後で、香りは1週間ほどでなくなります。
開花の遅れと長期化は、去年の天候が大きく影響したと推測していますが、幸いにも気温とキンモクセイの開花については、かなり研究がなされていますので紹介しておきます。参考にしてください。
1 暑かった2020年
世界気象機関(WMO)は1月14日、2020年の世界の平均気温が16年と並んで観測史上最高となったと発表しました(1)。日本の2020年平均気温も81~10年の平均より0.95℃高く、1898年の統計開始以降、最も暑い年だったと気象庁は発表しています(2)。
また、名古屋気象台によると、東海地方(愛知、三重、岐阜、静岡)の2020年の平均気温は平年値(2010年までの30年平均)を1.2℃上回り、平年との差は1946年の統計開始以来、最も暑くなったそうです。8月だけをとってみましても、月平均気温は平年差プラス2.2℃で、統計開始以来最も高かったようです(3)。さて、当地の状況については隣接した名古屋の気温で代替えしますと、8月上旬から9月下旬までの平均気温は平年値より高く、特に8月中旬は平年よりも3.2℃も高くなりました(図)。
2 花芽はいつごろできるのか
キンモクセイは今年の春伸長した新梢の葉腋に着花し、花芽の分化は8月上旬にといわれ(4.5)、その後わずか50日程度で開花します。樹木の花としては異例の速さであり、花芽分化から開花までの日数の短さは、環境の影響を受けやすいそうです(6)。
3 キンモクセイの異常現象
キンモクセイは時に2度咲くという巷の噂を、下村・山本(7)らは2007年京都市の住宅地に植栽されたキンモクセイ26株を経時的に計測することによって、2度咲き現象の発生を実証しました。2007年は猛暑の年で、10月11日に第1回目の開花ピークを迎え、10月23日2度目のピークが訪れました。2度目の開花には当年枝の花芽より前年枝の花芽が、定芽よりも不定芽が大きく寄与することも明らかになりました。
4 高温が開花に及ぼす影響
キンモクセイの2度咲き現象が近年の温暖化の影響である可能性を検討するため、中島・山本(6)らは夏季から秋季にかけて野外の気温に対して3℃加温したグロースチャンバー内でキンモクセイを栽培しました。その結果、次のようなことがわかりました。
(1)2度咲き現象を再現することができた。外気温区の開花ピークは1度だけであったのに対し、加温区では2~3度咲き現象を確認した。
(2)開花の開始は遅れた。開花初見日は、外気温区で10月3日、加温を開始した7月20日区で10月8日、8月4日区で10月16日、8月19日区で10月8日、9月3日区では10月16日であった。
(3)開花期間は長期化した。外気温区では2週間程度であったが、加温区全体では5~6週間開花が継続した。
5 なぜ開花がおくれたのか
中島・山本らは、夏季から秋季の高温化によって栄養成長が促進されたか、あるいは秋季の気温低下の遅れから栄養成長停止が遅れたことが、花芽の発育を抑制した可能性が考えられるとしている。
6 結び
以上のことから、去年起きたキンモクセイの開花遅れと、長期にわたる香りの持続は、夏の異常高温による花芽分化の遅れと2度咲きに起因しているのではないかと思われます。
さて、今年の夏は平年よりかなり涼しく推移しました(図)が、キンモクセイはいつ頃咲くのでしょうか。楽しみですね。
▲キンモクセイの生垣(2020年10月21日撮影、於JA尾張中央)
▲図 2020~2021年の平均気温(名古屋)
参考文献
1 東京新聞(2021.1.15)共同通信;2020年史上最も暑い年に 世界平均気温、16年に並ぶ
https//www.tokyo-np.co.jp/article/799732?vct=national
2 気象庁(2021.1.30);日本の年平均気温
https//www.data,jma.go.jp/cpdinfo/temp/an_jpn.html
3 中日新聞(2021.1.17);東海4県平均気温最高20年まとめ
4 小杉 清,吉田重幸(1954);花木類の花芽分化に関する研究(第3報),園学雑誌23(2)
5 小杉 清(1976);花木の開花生理と栽培,博友社,p.120~121
6 中島敦司・山本将功ら(2011);夏季から秋季にかけての気温がキンモクセイの開花に及ぼす影響,日緑工誌37(1)
7 下村 孝・山本祐子(2008);京都市上加茂および下加茂地域でのキンモクセイ(Osmanthus fragrans var. aurantiacus)二度咲き現象の実態調査,日緑工誌34(1)