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着花・着果管理(花粉ないよ~)

[2023.12.01]

●営農技術指導員 須崎静夫●  

●はじめに
 家庭果樹でも毎年慌てる「花粉がないよ~」事件。早めに心の準備をすれば、安心できるかも。いろんな方法を考えてみました。
1 樹種・品種による結実性の違い
 イチジクやカンキツ類など単為結実性ならば、授粉に関しては何もしなくても、良いでしょう(図1)。

▲図1 単為結実性

 ビワ・ブドウ・モモの多くのように、自家結実性・自家親和性ならば、勝手に授粉したり、ミツバチが授粉しているかもしれません。さらに、枝を揺すったり、人工授粉すれば安心です。カタログ等に、「自家親和性あるけれども授粉しましょう」とか、「授粉すると着果が良くなります」と書かれている樹種・品種も該当します。

 サクランボやスモモ・ナシ・リンゴには、不親和性という性質があります。自家不親和性は同じ品種と、交配不親和性は同じ交配遺伝子型とでは、実が成らない性質で、交配遺伝子(S)がS1S2とかS4S5のようにSと下付の小さい数字で表現され、数字が全て同じなら、交配遺伝子型も同じため親和性がなく、1つでも違えば、親和性があります。交配不親和性は、授粉しても授精できないことに起因しています。親和性があっても、発芽するか、花粉管がちゃんと伸びるかといった、花粉能力も必要です。(図2)。

▲図2 不親和性

 カキやキウイフルーツの多くでは、オス花とメス花の樹が異なるので、授粉樹を植えたり、オス花から花粉を採取したりして、授粉します。直接、メス花につけてもよいでしょう。ギンナンも雌雄異株ですが、あまり難しく考えない方が良いでしょう。
(図3)。

▲図3 雄花と雌花が異なる果樹

 クリやクルミ・ムベは同じ樹に雄花、雌花が咲きますが、雄雌のどちらかの花が早く咲き、もう一方が咲くころには、終わってしまいます。このため、雄花と雌花の開花期が合うような品種を混植します。

 ポポーは、自家親和性があるものの、一つの花の中にある、めしべと花粉の熟期が異なる(雌性先熟)ため、雌雄で花器の熟期が重なる他の品種があると結実性が高まります。

2 花粉の確保
 花が咲きそう、咲いたけど、授粉用の花粉がない場合の緊急的な方法です。
①授粉に使える開花枝・花・花粉を入手する。咲いている花を探すか、直売所の出荷者さまなどに、早めにお願いしておきましょう。咲いている品種がわからないと、交配親和性も不安です。いろんな品種(交配遺伝子型)を入手できれば混ぜて使います。開花枝は水の入った容器に入れて、花の近くに置いて、ミツバチさんたちにお願いしましょう。
②カキ・キウイフルーツなら、農協かネットで注文する。純花粉・品種混合が10gで何千円です。冷凍(-18℃)ならば、使う前日に冷蔵庫(5℃)、当日に15~20℃くらいの室温に置き、馴化させて、使用します。
3 人工授粉~花粉採取・調製
 人工授粉は、開花始めから盛りの頃に数回、梵天や毛バタキで、咲いている花をなぞります。花粉のない品種には他の花粉をつけます。直接なら1花で5~20花くらい授粉できます(図4)。

▲図4 花粉の摂取と調製

  花が咲いている場合、花粉を落とさないよう、ていねいに集めます。黒い容器を使うと見やすいでしょう。樹種・品種によって受粉の適期に幅があります。
花が咲く直前の風船花・ちょうちん花の場合には、花を摘み、葯を採取します。黒い紙の上に置き、日光に当てるか、20~25℃くらいの温度を加え、葯を開いて花粉を取り出します。花1㎏から純花粉が1gくらい調製できます。農家での流れは、花摘み(人力)→葯取り(採葯器)→花粉出し(開葯器)→花粉調製(篩)→人工授粉(梵天・毛バタキ)です。
 花粉の必要量は、品種、発芽率、親和性、着果性などにより異なりますが、メーカー情報では10aで20gです。これを石松子(セキショウシ)で5~10倍くらいに増量・希釈して使用します。発芽率が高ければ薄め、低ければ濃いめにします。余れば、次回の増量剤とします。着果性が良ければ、摘蕾摘花で花数を減らします。実止まりが悪ければ、花を多く残してたくさん授粉します。
4 花粉の貯蔵
 数日・短期なら冷蔵(5℃)、長期・翌年以降用なら、冷凍(-18℃)保存します。貯蔵用には、開花直前の花から純花粉を調製して、1日分とか1回分のように、授粉に使う必要単位に小分けして薬包紙かザラザラの広告紙に包み、品種名、調製年月日を記入して、乾燥剤(シリカゲル)入りの密封容器(昔なら茶筒、今ならフリーザーパック)に入れて冷凍します。必要な人がいたら分けてあげましょう(図5)。

▲図5 花粉の貯蔵

5 花粉の発芽試験
 寒天培地を作れば、花粉の発芽を確認できます。寒天に添付されている作り方を参考にしてください。一般には、水100ccに砂糖10g、(粉)寒天1gを加え、しばらく沸騰させて完全に溶かします。ガラス板・シャーレなどへ、厚さ1㎜くらいに広げるとすぐに固まります。花粉を数十粒まいて、室温・20℃くらいの所へ置きます。発芽の良否・程度を見るなら3時間後に、花粉の大きさ(約50ミクロン)の10倍くらい伸びていれば、OKです。肉眼で見えます。発芽が悪いときは、もうしばらく(12時間後まで)様子を見ます。納得できないときは、ふりだしに戻ります(図6)。

▲図6 発芽実験

 発芽の悪い原因(品種特性、開花期の天候、調製・貯蔵・培地の不備・・)を探しておきましょう。培地は、冷蔵庫で1週間くらい保存できます。余った培地は食べちゃいましょう。

 

 中国で中国で火傷病(かしょうびょう)が発生し、ナシ・リンゴ花粉の輸入が停止されました。国内での発生を防ぐため在庫がある場合、来春以降の使用を控えてください。

●ちょろっと一言●
 一般の方は、採葯器とか開葯器なんて見たことも聞いたこともありませんね。
採葯器の見た目は、ただの箱です。
採葯器の代わりには、咲きかけのちょうちん花を包丁で刻むとか、葯を指先でつまみ取るとか、2・3mm目の篩でこすり取るなどの人力方法があります。
 開葯器は、春先のまだ寒い時期に使う20~30℃を保てる加温器です。
 開葯は、黒い紙の上に、葯を広げて天日に当てて、黄色い粉・花粉が出てくれば完成です。ちょっと目を離すと、風で吹っ飛んだり、雨に降られたりします。ネコさんに留守番をお願いしましょう。深めの箱に入れるとか、陽の当たる軒先で行なっても良いでしょう。

▲図:お留守番ネコ(チョコ&プリン)

▲図:お留守番ニャンズ

▲図:ミツバチ軍団:女王さまは私よ!とちょっとだけ態度が大きいのはどなたでしょう?

▲図:はたらきバチズ

●ちょろっと一言:交配親和性の一覧表●

 スモモ・ナシ・リンゴで、あったらうれしい「交配親和性一覧表」。インターネットで検索しても、なかなか出てきませんね。交配遺伝子Sの数字かアルファベットが分かるなら、下のような、タテに栽培(メス)品種、ヨコに花粉(オス)品種を入れて、ぶつかるところに結実率があればいいのになあと思いますが、いかがでしょうか。

▲表 ナシのS遺伝子型

●ちょろっと一言●
 テレビでは、花の満開時に、生産者(たいがいは部会長)さんが、柄の長い梵天で花から花へとなぞったり、ミツバチがあっちこっちへ行ったり来たりしていますね。
他の授粉方法には、ドローンでまき散らすとか、送風機・ブロワーで吹き飛ばすとか、水に溶かして噴霧するとかいう方法もあります。

▲図 ミツバチ新人トリオで~す

▲図:ミツバチ広報隊です

●ちょろっと一言:事件です●
 30年くらい前の、資格試験に「リンゴの火傷病について記せ」というのがありました。そもそも、漢字が読めません、「わかりません」で「不合格」。」果実の火膨れでしょうか。葉っぱが燃えたような症状でしょうか。令和5年8月に「中国のリンゴで火傷病(かしょうびょう)が発生、ナシ・リンゴ花粉の輸入禁止」の情報です。いつの間にか、輸入だのみで、国産は貴重品になりましたね。

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