10月の果樹だより
[2018.10.01]
●杉山文一営農技術指導員
落葉果樹類の苗木の植え付けと施肥と土壌改良
1 落葉果樹類の苗木の植え付け
① 愛知県尾張地域での落葉果樹苗木の植えつけは、秋植えとして11月頃に植え付けます。春先の2月下旬には根が動き始めるため、根が土となじみやすく春先の生育が良好となるため、落葉果樹類の苗木の植え付け時期となります。しかし、イチジクは寒害に弱いので春先の3月の植え付けとしてください。
② 植え付け方法は、図1を参考にしてください。注意点は、土壌が硬く、植え穴が排水不良で水が溜まるようだと生育不良となります。
③ 植え付ける場合は、植え穴だけ掘るのではく、前もって植え付け予定地に堆肥を散布し、全体を広く浅く耕起してから植え穴を掘って植え付けると根の伸長も良くなります。植え穴の下層土には、完熟堆肥と熔リンを入れて、良く混和しておきます。そして、完熟堆肥に根が接しないように植えます。
④ 植える時は、植え穴の上の部分に高さ10~15cmで幅が50cm程度の半円形の盛り土をして植えると根張りが良くなります。
⑤ 植える時は、台木の接ぎ木部分を地上部に出して深植えにならないようにします。穂木の部分から根がでると生育に影響が出ます。
⑥ 太根の先端部分の細根を切り返えし、四方に根を広げて植えます。太根の先端部分を切り返して植えると、春先になって発根が良くなります。
⑦ 植え付け時に、土壌が乾かないように上からかん水をおこないます。大量のかん水をおこなったり、雨が降って植え穴に水が溜まると根が弱ってしまって生育に影響します。植え穴に水が溜まらないように注意して下さい。
⑧ 苗木は、40~50cmの充実した葉芽の上で切り返し、支柱を立て、倒れないように支柱に誘引します。
⑨ 植え付けた後に、有機質補給と乾燥防止として、ワラや乾燥した雑草、バーク堆肥等を敷いて下さい。施肥は、萌芽後から生育に合わせて化成肥料を施用します。
2 施肥のポイント
(1)主要な栄養素
果樹の生育に必要な十数種類の無機養分のうち、チッソ、リンサン、カリなどは天然でも供給されますが、必要量が多いため肥料としても補給します。また、カルシウムとマグネシウムは土壌の化学性である酸度矯正することを主目的に施用されます。主要な栄養素の役割は、次のとおりです。
ア チッソ(N)
植物が生長するためのタンパク質の合成になくてはならない成分であり、細胞や葉緑素をつくるのに必要です。チッソが不足すると、葉が小さく、黄色くなり、樹も大きくなりません。また、チッソが多すぎると、花芽の形成がわるく、新梢が徒長し、果実の成熟が遅れ、着色も悪くなり、病気の発生の原因ともなります。
イ リンサン(P)
細胞をつくるのに必要な成分で、植物体の細胞核を形成しており、リンサンがなければ植物は生きていけません。しかし、チッソに比べて吸収量が少ないので、チッソより少なめの施用で十分です。リンサンは、土壌に吸着しやすい成分です。
ウ カ リ(K)
炭水化物やタンパク質の合成を助ける役目をします。果実が肥大し始めると、果実のカリ含量は高くなり、果実肥大期には必要な成分です。吸収量はチッソと同じかやや多いか、稲ワラや敷き草等からの天然供給量でも多い。しかし、利用率も比較的高いので、チッソと同量程度に施用します。
エ カルシウム(Ca)
植物がタンパク質を合成するときに有機酸ができる。カルシウムは、そのときにできた過剰の酸を中和し、適当な酸度を保つ働きをします。また、葉緑素の生成や炭水化物の移動にも役立っており。細胞の組み立て材料にもなります。
オ マグネシウム(Mg)
マグネシウムは葉を構成している葉緑素の細胞を構成する中心的な役割を果たしている。欠乏すると光合成に影響します。
(2)施用の種類
ア 基肥
落葉果樹は、休眠期の11~12月に、常緑果樹とイチジクは春先の2月中下旬に施用する肥料です。作目によって違いますが、有機配合肥料を主体に植物体が必要とする1/2~2/3程度の成分量を施用します。
イ 追肥
果実の肥大を促進させ、収穫期まで樹勢を維持するために化成肥料を施用します。施用時期は作目によって違いますが、5~6月にかけてチッソとカリを施用します。樹勢の旺盛場合は、チッソ成分は控えてカリ成分を施用します。
ウ 礼肥
果実の収穫後に葉の光合成を盛んにして、貯蔵養分の蓄積を増すことを目的に、速効性のチッソを主体に化成肥料を施用します。
(3)主要樹種の施用時期と施肥の注意点
主要樹種の施肥量の目安を表1にまとめました。施肥量が多いと品質が低下するので注意して下さい。チッソ成分を多用すると枝が軟弱に生育し、品質低下や病害虫の発生を助長します。施肥時期や施肥量は、土壌条件と有機質の施肥量及び収穫が早い品種か遅い品種かによって生育ステージが違ってくるため、条件に合わせて施用量を変えるようにしてください。
表1は、代表的な品種の植栽本数に対する肥料成分の目安です。参考にしてください。
10a以上の成木園では、肥料を土壌の表面に散布する表層施用が一般的です。棚栽培のブドウとキウイフルーツや棚仕立てのナシとスモモは棚栽培であるので棚下全体に、イチジクは畦栽培であるので畦の上に施用します。そして、柑橘やカキやウメ等の立木仕立ての作目は樹の周囲に輪状の溝を掘って施用すると肥料効率が向上します。施肥は土壌と混和することが必要です。施肥したら必ず中耕をおこないます。
種類別の施肥のポイントは、下記のとおりです。
ア カ キ
① 生育期間が長いので、基肥は12月までに有機質肥料を主体に施用し、長く効かせるようにします。
② 着果が少なく樹勢が強い場合は、6月中旬の追肥は品質に影響するのでしない方が良い。
③ 着色が進んで来たころの10月下旬に礼肥を施用します。
イ ブドウ(大粒系)
① 基肥は、遅いと品質に影響が出ますので、10月下旬~11月中旬頃には施用します。
② 6月上旬の追肥は、樹勢の状態をみて、弱い場合はおこないますが、が強い場合は控えます。
③ 5月下旬から6月上旬の開花期にチッソ成分が効くと、新梢が伸びてしまい、巨峰系品種は花振るいの原因となり、バラ房になってしまいます。また、園が暗くなって果実の品質が低下の原因となります。
ウ モモ(晩生種)
① チッソがいつまでも効いていると、新梢が遅伸びや生理障害が発生します。基肥は11月中旬頃までに施用してください。
② 翌年の花芽の充実と貯蔵養分の蓄積を図るため、礼肥を8月下旬~9月上旬に施用します。
エ ウ メ
① 開花や生育が早いので、基肥は10月上中旬には施用します。
② 樹勢の回復を図るため、礼肥を6月下旬~7月上旬におこないますが、樹勢の強い場合はチッソ成分を減らします。
オ キウイフルーツ
① 生育期間が長いので、基肥は11月中下旬までに有機質肥料を主体に施用します。
② 5月下旬の追肥は、樹勢の状態をみて、強い場合はチッソ成分を控えます。
カ イチジク
① 10月頃まで成熟するので、2月下旬に基肥を有機質主体に施用します。
② 収獲期間が長いので、7月から8月にかけてチッソ成分主体に化成肥料追肥します。
キ ウンシュウミカン(早生種)
① 落葉果樹と違い、基肥は春肥として2月下旬~3月上旬に施用します。
② 10月下旬の礼肥は、着色が始まったら施用します。早いと、浮皮が発生します。
ク 中晩柑類
① 生育期間が長いので、春先に基肥を有機質主体に2月下旬に、化成肥料の追肥を6月中旬におこないます。
② 礼肥は、着色始めの10月下旬に施用します。
(4)家庭果樹における施肥のポイント
家庭果樹の場合、植栽本数が少ないので全面施用でなく、樹ごとの施用となります。①カキやウメや柑橘類などの立木仕立ては、輪状施肥といって樹の周囲に輪状の溝を掘って施用します。②ブドウやキウイフルーツは棚に広がっている部分に施用し、軽く起こします。③イチジクは畦の上で樹が広がっている部分に施用します。施用後に中耕をすると効果的です。
基肥は、有機質主体肥料を、追肥と礼肥は速効性の化成肥料を施用します。施肥量が多いと品質が低下します。
表2に家庭果樹における樹種別の施用時期と1樹当りの施用量の目安を列記しましたので参考としてください。
3 生育に適した土壌
果樹は、永年作物で土壌状態によって生育に差が出ます。図2の様に、土壌が硬く水分が多いと根群域が狭く生育が不良となる。土壌が柔らかく水はけが良いと根群域が広くなり生育が旺盛となります。
(1)望ましい土壌条件
種類によって好む土壌条件が違います。注意点は、排水を良くすることと、土壌を固くせず、柔らかくすることです。そのためには、土壌を耕して堆肥や敷きワラをします。
望ましい土壌の三層分布は、図3のように固相40%・液相40%・気相20%です。固相は土(土壌)の部分で、液相は水の部分で、気相は空気の部分です。土壌部分の割合が高いと土壌が硬く根の伸びが悪くなり、水分部分の割合が高いと湿害になりやすい(表3)。また、空気の部分が大きいと乾きやすい土壌となる。
種類別の適正な土壌条件は、表5のとおりです。
(3)有機質の施用
有機物は土壌物理性や化学性を改善する効果があるので、毎年施用すると効果が高い。バーク堆肥やみのり堆肥を施用すると良いが、牛ふん堆肥の場合は長期間堆積して、十分発酵腐熟したものを施用します。
チッソ成分を多く含む堆きゅう肥等を施用する場合は、基肥のチッソ施用量を減らす必要があります。有機質資材を毎年施用すると根張りが良くなり、排水対策にもなります。
毎年深耕や中耕を兼ねて、有機物(完熟堆肥)を10a当り1,000~2,000kg程度を施用すると、生育が良くなります。