2月の果樹だより
[2020.02.01]
●杉山文一営農技術指導員
<耕種的病害虫防除の重要性>
作物の耕種・栽培手段を変えて、病害虫の定着や繁殖場所を抑制し、被害の軽減を図る方法を耕種的防除といいます。
生産性を高めるには、最低の農薬使用は必要です。しかし、必要以上に農薬を散布することは生産費や農薬の安全使用や環境の安全性の負荷を考えると良くありません。春季から夏季かけて病害虫の発生を減らし、農薬の散布回数も減らすには、冬季に耕種的防除を実施してください。
1 冬季におこなう耕種的防除
病害虫防除は、薬剤散布(化学的防除)だけで発生を軽減することが困難な場合があります。冬季に耕種的防除(物理的防除)を実施して病原菌や害虫の密度を下げることが重要です。
耕種的防除法として、せん定時に病原菌の越冬場所である罹病枝の除去や害虫の成虫や幼虫の駆除としての粗皮削りがあります。12月から2月の寒風が吹く時期に実施します。寒風や雪が降る前におこなうと害虫の駆除には効果的です。また、ほ場内を綺麗にして、病原菌や越冬場所を無くして下さい。
また、冬季は樹も休眠状態です。羅病部分を大きく削りとっても生育に影響はあまりありません。また、病原菌も休眠状態ですので、菌の飛散もありません。病原菌や害虫を直接駆除するには良い時期です。
種類別に、表を参考にして実施してください。
表 休眠期に実施する耕種的防除のポイント
種 類 | 対象病害虫 | 防除方法 | 時 期 | 病原菌・害虫の越冬場所 |
カ キ | 炭疽病・黒星病・うどんこ病 | 羅病枝を切除して、病害の発生原をなくす。 | 剪定時(1月から2月) | 病原菌は、枝のしみや黒斑・枯れ枝・芽の鱗片で越冬する。 |
モ モ | せん孔細菌病・黒星病・炭疽病 | |||
スモモ | 黒斑点病・炭疽病 | |||
ウ メ | ウメかいよう病・黒星病 | |||
ブドウ | 黒とう病・晩腐病・うどんこ病 | |||
キウイフルーツ | 果実軟腐病、かいよう病、炭疽病、花腐れ細菌病 | |||
柑橘類 | 黒点病・かいよう病・サビダニ | |||
カ キ | 落葉病・うどんこ病 | 落葉を集め、焼却か穴に埋めるか園外へ出しする。 | 12月から2月 | 病原菌は、落葉で越冬する。 |
モ モ | うどんこ病・せん孔細菌病 | |||
ブドウ | べと病・褐斑病 | |||
キウイフルーツ | かいよう病 | |||
柑橘類 | そうか病・かいよう病 | |||
モ モ | 灰星病・炭疽病 | 果実や花弁を集め、穴に埋めるか園外へ除去する。 | 12月から2月 | 病原菌は落果した果実や、枯死した花弁で越冬する。 |
スモモ | 灰星病・炭疽病 | |||
ブドウ | 黒とう病・晩腐病・べと病 | |||
イチジク | 疫病 | |||
ブドウ | 晩腐病・黒とう病・うどんこ病 | 巻きひげ・穂柄を除去する。 | 剪定・誘引時(12月から3月) | 病原菌は、巻きひげ・穂柄で越冬する。 |
カ キ | カキノヘタムシガ・カキクダアザミウマ | 粗皮削りをして樹肌を綺麗にし、病原菌や害虫を寒風にあてて殺す。 | 1月から2月
| 主幹・主枝・亜主枝表面のガサガサの所に病原菌や害虫(成虫、老齢幼虫)が越冬する。 |
モ モ | ナシヒメシンクイ・モモハモグリガ | |||
ブドウ | チャノキイロアザミウマ | |||
キウイフルーツ | 果実軟腐病 | |||
柑橘類 | ハマキムシ類・ハモグリガ | |||
果樹全般 | カイガラムシ類 | |||
カ キ | カキノヘタムシガ | 枝の分枝部及び樹皮の割れ目を削り取る。 | 1月から2月 | 枝の分枝部および太枝の切り跡の樹皮の割れ目に害虫(成虫、老齢幼虫)が越冬する。 |
モ モ | モモノゴマダラノメイガ | |||
スモモ | モモノゴマダラノメイガ | |||
モ モ | ナシヒメシンクイ | 主幹にナワ・肥料袋等を巻き、越冬幼虫を集めて捕殺する(バンド誘殺)。 | 11月 | 粗皮に越冬する害虫が集まってくる |
果樹全般 | ハダニ類・カイガラムシ類 | |||
モ モ | アメリカシロヒトリ | 枝や幹にいる成虫や幼虫を除去及び切除する。(幼虫が侵入すると被害枝から虫フンが出る。) | 剪定時(1月から2月)
| 枝の内部や表面に成虫や幼虫で越冬する。 |
スモモ | アメリカシロヒトリ | |||
ブドウ | トラカミキリ・ブドウスカシバ | |||
イチジク | カミキリムシ類 | |||
柑橘類 | トラカミキリ | |||
果樹全般 | ロウムシ類 | |||
カ キ | イラガ類 | 越冬まゆや卵塊を捕殺(集めてつぶすか焼き捨てる)する | 1月から 2月 | 枝や芽の付近にまゆや卵塊で越冬する。 |
モ モ | オビカレハ・アブラムシ類 | |||
スモモ | オビカレハ・アブラムシ類 | |||
ウ メ | アブラムシ類・オビカレハ | |||
ブドウ | クビアカスカシバ | |||
カ キ | 落葉病・うどんこ病 | 園の周辺の除草や園内の中耕を実施して、病害虫の発生原をなくす。
| 1月から2月 | 老齢幼虫がまゆをつくって土中で、雑草で病原菌や害虫が越冬する。 |
モ モ | モモシンクイガ・モモハモグリガ・ハダニ類 | |||
スモモ | スモモヒメシンクイ | |||
ウ メ | 炭疽病・ウメかいよう病 | |||
ブドウ | コウモリガ・チャノキイロアザミウマ | |||
果樹類全 | アザミウマ類 |
2 夏季におこなう袋かけや新梢の病害汚染部分や害虫加害部分の切除
品質向上の為におこなう袋かけは、果実への病気の感染や害虫の加害を防ぎます。また、新梢の病気の感染部分や害虫の加害部分を切除することは病原菌や害虫の密度を下げる効果的な方法です。
夏季におこなう袋かけや新梢の病害汚染部分や害虫加害部分の切除をして園内を明るくするのも、生産性を高めるだけでなく重要な耕種的防除の方法です。