3月の果樹だより
[2019.03.01]
●杉山文一営農技術指導員
柑橘類の整枝せん定のポイント
尾張中央農協管内では、ファーマーズやグリーンセンターでの産地直売や遊休地利用での楽しみで多くの柑橘類が栽培されています。他の地域では、栽培環境や品種によって整枝せん定方法や程度が違います。今回は尾張中央農協管内の栽培者を対象とした整枝・せん定について解説いたします。温州ミカンと中晩生柑橘類の整枝せん定のポイントは基本的には同じですが、品種の特性により違ってきます。
1 柑橘類の整枝せん定のポイント
(1)整枝せん定の目的
整枝せん定は、①樹冠内部まで日射が入って果実品質を向上させることと、②薬剤の付着効率を高めて病害虫の発生を少なくすることと、③毎年果実が安定的に着果することを目的に行います。
(2)結果習性について
柑橘類は、図1の様に本年伸びた新梢(結果母枝)の先端部分に花芽を形成し、翌年の春に伸びた先端部分の新梢(結果枝)に花が咲いて果実を着けます。
「柑橘類は前年に伸びた枝を切り戻すと新梢が伸びて果実をつけません。」前年の春や夏に伸びた新梢を、途中で切り戻さないで下さい。
果実の着き方は、結果母枝性と言って、前年に伸びた枝の先端部から、今年の春に伸びた新梢に花が咲き、果実をつけます。
3)せん定の時期
柑橘類は無霜地帯での栽培では、せん定は2月中旬頃からできます。しかし、日中が暖かくなった3月上旬頃からおこなった方が寒さの害も避けることができ無難です。亜熱帯原産で寒さに弱い果樹です。寒い時期にせん定すると寒風が樹幹内部まで通り、寒波が原因で落葉し樹勢が弱る原因となります。葉が多くあるほうが耐寒性が高まり、寒さに強くなります。
(4)柑橘類の基本樹形
柑橘類の樹形は、開心自然形が一般的です。主枝は2本から3本とし、各主枝に亜主枝を1本配置します。主枝と亜主枝に側枝を配置し樹全体と各枝が二等辺三角形になるように整枝します。そして、樹間内や結果部位に日射が入るようにします。
整枝・せん定は図2の様に切除して整枝する部分は、①樹高の切り下げ、②内向枝・主枝との競合枝の切除、③逆向枝の間引き、④亜主枝から出た立ち枝の間引き、⑤亜主枝に重なる枝の切り返し、⑥長い亜主枝や側枝の切り戻し、⑦地際の下垂枝の間引き、⑧枯れ枝(年間)です。
(樹形と枝の呼び方)
①主幹:地上から最上位の主枝の分岐点までの幹の部分
②主枝:主幹から直接分かれて出た枝で、亜主枝、側枝を着け樹形の基礎になる枝。
③亜主枝:主枝から分岐した枝で側枝を着け、主枝と並んで樹形の骨組みになる枝。
④側枝:結果母枝や結果枝を着ける枝で果実を生らせる部分です。
(5)枝の切り方の基本
せん定は基本的樹形で述べた様に、①かぶさり枝である強い立ち枝は、基部から切り取って下部に日射が入るようにします。また、②今年果実が生った部分を切り戻して、側枝を切り替えます。切る枝として、③徒長枝、④平行枝、⑤逆行枝、⑥交差した枝、⑦下垂枝を除きます。せん定量は品種にもよるが、樹全体の20~30%程度とするが、青島温州のような樹勢の強い品種は、10%程度としてください。
剪定は毎年おこなった方がよく、混んだところや、被さった枝を3~4ヵ所切除するだけでも効果があります。
樹高を下げる場合は、主枝の途中で切り返すと強い新梢が発生するので、比較的強い枝のあるところで切り返えします。
(6)側枝の作り方
結果部位を毎年確保するには、側枝の更新が必要です。温州ミカンの果実のつき方は、結果母枝性で、前年枝の先端から今年の春に伸びた新梢に花が咲き果実をつけます。側枝の更新を図るには、図3の様に本年の結実部分を切り返して翌年の結果部位に更新します。また、本年の結実部分である強い立ち枝を間引いて、翌年の結実部分に光が入る様にします。
また、①樹勢が弱く、結果部位が外側に多くなっている場合は、切り返しをおこなって樹勢を強くして側枝の更新を行います。また、②樹勢が強く立枝が多い場合は、強い立ち枝を間引いて樹勢を落ち着かせ、下枝に光が当たるようにします。
側枝の更新は、①切り返して結果部位を更新する方法と②下枝に光が入る様に立っている枝を間引く方法とがあります。
基本的には、果実に光が当たるようにしてください。果実を着けた枝を中心に切り返すと、内部まで光が良く入り結果母枝となる新梢の発生が良くなります。この切り返した部分の枝を予備枝と言います。
せん定の対象は、予備枝で果実をつけた枝を中心に切除しますが、枝が混んでいる部分は、結果母枝も切除します。
(7)1年枝の特徴は、下記のとおりです。
①発育枝:葉芽または葉だけをつけている枝です。翌年に、結果母枝となる新梢を出す枝です。
②結果母枝:発育枝として発生した枝で、翌年に結果枝を出す枝です。
③結果枝:花が咲いて、果実を付ける枝です
④徒長枝:発育枝の中で長大に成長した枝です。
図4の結果母枝は緑枝の発生でせん定前の状態です。果実をつける枝を出すので、混む以外は切り取らない。
図5は収穫痕の部分で、せん定前の状態です。果実をつけない緑枝を出す枝で、せん定の対象とする枝です。
(8)強い枝と弱い枝のせん定の違い
枝の直径が同じなら、水平の枝に対しての角度が大きいほど強い枝になる。角度が同じなら、枝の直径が大きく長く伸びた枝ほど強くなる。図6の様に、強い枝は元から間引くが、弱い枝は、先端部分を切り返すか弱い枝を切り返す。
(9)花の多少とせん定の違い
花が多い樹の場合は、発育枝を出す目的で混んだところの切り返しや上向きの果梗枝の除去をおこなう。
花が少ない樹の場合は、昨年の生り枝である果こう枝が多く結果母枝が少ない。そのため、強いせん定ができず、生り枝を中心に間引きせん定が主体となる。4月に着花の程度を確認してから図7の様なせん定をします。
(10)枯れ枝の除去
枯れ枝は、病原菌やダニ等の害虫の越冬場所となります。特に、枯れ枝は黒点病の病原菌の巣になります。せん定時には、綺麗に除去してください。
(11)結果母枝の残し方
① 充実した結果母枝を残すように心がけ、有葉花中心に着果させるようにする。
② 弱い結果母枝は着花し易いので除去し、着花数を減らすようにする。
③ 樹の表層部分は、樹内部より果実肥大が良いので優良結果母枝を多く残すようにする。
(12)着果の多い場合と少ない場合のせん定の注意点
① 着果の多い場合
優良結果母枝が少ないので、今年着果した部分を中心に切除し、樹形にこだわらず結果母枝はできるだけ多く残すようにする。
*結果母枝を多く残さないと、隔年結果の原因となる。
② 着果が少ない場合
結果母枝が多いので、着果過多となりやすく隔年結果する。切り返しを強くして、翌年の優良結果母枝である新梢を多く発生させるようにする。
(12)品種ごとのせん定のポイント
尾張中央農協管内のファーマーズやグリンセンターでよく見かける品種のせん定のポイントを表にまとめました。せん定をする時の参考にしてください。
晩柑類の整枝せん定のポイントは、基本的には同じですが品種によって樹の特性に違いがあります。中晩柑類は樹冠内部に光が入らないと内部の枝が枯れやすく、また外層に良品果実が多く生ります。そして、品質優良な大玉果を生産するために、充実した良好な新梢を発生させ、有葉花を確保することが必要です。