
家庭果樹の繁殖
[2025.02.01]
●はじめに
家庭果樹の接ぎ木・挿し木・種まきなど繁殖です。種苗法の改正により、登録品種の自家増殖(接ぎ木・挿し木・・)は制限されます。一般品種(在来種・登録が切れた品種・登録されていない品種)なら、ほぼ自由です。種苗法の詳細は、Webで検索してください。
●接ぎ木
ほとんどの種類で行なえます。適期は切接ぎが春(開花の頃:3月下旬から5月上旬まで)、芽接ぎが秋(9月から10月の樹皮がペロリとめくれる頃)です。
一般に、カンキツ類にはカラタチ、ナシにはマメナシ、ブドウには5BB、モモには赤芽、リンゴにはマルバカイドウ・・・といったように、矮性や病害虫抵抗性などの台木専用品種や実生(共台)が利用されています。最近は、イチジクも台木が使われるようになりました。
春の切接ぎ用穂木は、休眠期中に採取し、乾燥しないように冷蔵(5℃)しておきます。秋の芽接ぎ用穂木は、直前でも構いません。ウィルス、病気などに感染していないものを使用します。
高接ぎすると早く実が成るようになります(図1)。1本の樹にいろいろな品種が実っていると、新聞やテレビの取材があるかもしれませんね。見た目的に、小さな果実・早熟する品種は上の方に、大きな果実・晩熟する品種は下の方に成らせると良いでしょう。接ぎ木にも親和性があり、カンキツ類のレモンとミカン、カキ・ブドウの一部品種同士では、相性が悪いといわれています。
1本の横に多くの品種を高接ぎ(種苗法を遵守のこと)
図は一例です。穂木と台木の形成層がうまく合わされば活着します。活着しない主な原因は、相性(接ぎ木親和性)のほか、穂木の乾燥、穂木/台木の削り方・合わせ方、接ぎ木テープの巻き方です。
台木がなければ、1年生苗木を中間台にすることもできます。とある種苗会社に、穂木を送ると接ぎ木苗にしてくれるというサービスもありました。料金は購入苗木と同じか、ちょっと高めです。
●挿し木
イチジク・キウイフルーツ・ギンナン・ザクロ・ブドウ・ブラックベリー・ブルーベリーなどで行えます(図2)。発芽前(3月頃)には休眠枝挿し、6月の梅雨時の葉が十分に硬化した頃には緑枝挿しできます。ビニールを被せる密閉挿しや発根促進剤を使用すると発根しやすくなります。
左が休眠枝・休眠期挿し 右が緑枝・生育期(6月・梅雨時)挿し ビニール被覆や発根促進剤を利用すると発根率向上が期待できます
また、モモやリンゴの1年生実生苗なら、挿し木で発根することがあります。お試しください。
ポポーは、少し離れた根っこから新芽が出てきます。実生苗かと思って引っ張ると、ペキッと折れてしまいます。根挿しでも繁殖できます。
パイナップルでは、とさかの様な冠芽Crown、冠芽から枝分かれした吸芽:サッカー:Sucker、株元(おしり)から出る裔(えい)芽:Slipの3種類を利用できます。どの芽も、遺伝的には同じながら、生育の仕方が異なります。
●吸枝(きゅうし・サッカー)・ひこばえなど
ブラックベリー・ラズベリーは、果実が成るとその枝は枯れてしまいますが、根っこの近くから新しい芽・吸枝が出てきます。
●種まき
美味しい果実に種子があったら、播いてみましょう。有名な品種同士の掛け合わせからなら、美味しい果実が成るかもしれませんね。そうでなくても、発芽や生育を観察したり、開花、成熟を待ち望んだりという楽しみの他、台木として使うこともできます。
お気に入りになり、要件(①区別性、②均一性、③安定性、④未譲渡性、⑤名称の適切性)に適えば、ちょっと手間と経費は掛かりますが、品種登録することも夢ではありません。ビワ・ブドウなど自家受粉する果実では、親に似た子になるといわれています。ただし、登録品種の種子からの苗が、珠心杯実生のように親品種と形質が似過ぎていると、種苗法に触れるかもしれません。家庭果樹として楽しみ、販売・譲渡しないでください。
食べてすぐ播く取り播きが簡単です。落葉果樹の種子が発芽するのは、一冬越した春先以降になります。「シャインマスカット」「デラウェア」など、種なしブドウの種子があったら、ラッキーです。アーモンドやギンナン・クリ・クルミなどは、その気にならないとおなかの中を粉々になって通過します。キウイフルーツ・ブラックベリー・ブルーベリーなら、いつかどこかで再会できるかもしれませんね。
●ちょろっと一言 種苗法違反事件●
国(農研機構)育成のイチゴ登録品種「桃薫:とうくん」の種苗を、無断増殖・売買した農業者が、種苗法で摘発されました(2024.12.03)。ランナーで簡単に増殖できてしまうと小賢しいことを考える人が出てきますね。 家庭園芸でも他人に譲ったりすると、生業とみなされ、種苗法違反になってしまいます。
●ちょろっと一言 イチジクの接ぎ木苗●
最近(ちょっと前に)、国(農研機構)でイチジクの抵抗性台木が育成されました。「広励台」1号・2号で、イヌビワ×イチジクの交雑種で、株枯病抵抗性があるそうです。1号・2号はどちらかが矮性で、もう片方が中庸?の樹勢です。挿し木で増やせるのに、穂木品種付きでないと購入できないとか、時価増殖は禁止とか、だいぶ種苗法や苗木業界もややこしくなってきましたね。
●ちょろっと一言 Q&A:登録品種の種まき・台木利用
農研機構・種苗管理センターのQ&Aに、
Q30:「果樹の苗木生産において、登録品種の果実から採取した種子の実生苗を台木として利用する場合には育成者権の侵害になりますか」とあり、
A30抜粋:「実生苗が当該登録品種の特性と明確に区分できない場合には、育成者権を侵害していると考えられます。特に柑橘類の珠心胚実生という親品種と同一な種子を形成する植物の場合は『「登録品種と特性により明確に区別されない品種」として育成者権の効力が及ぶことになります。云々…登録品種の実生苗を使わなければならない特別な理由がなければ、一般品種の台木利用が勧められます』とあります。ご注意を。
☆参考:例
接ぎ木の方法(春の切り接ぎ)
<用意するもの>
・接ぎ木ナイフ:よく切れるもの、なければカッターナイフ
・テープ:接ぎ木テープ:巻きながら伸びるもの、なければこれに類するもの(例:パラフィルム、絶縁テープ(ビニールテープ)、レジ袋・ハウスビニールを2cm幅に切ったもの)
・ロウ:乾燥を防ぐもの、接ぎロウ、なければロウソク(温めて溶かしたもの)、コケ、ドロンコ、レジ袋、ビニール袋
穂木は、休眠期間中に採取して、葉があれば取り除いて密封し、冷蔵庫野菜室(5℃)に保存します。接ぎ木の時期は、3~5月(発芽~開花期)で、晴天・無風で、あまり寒くない頃が適します。
<方法>
①使いたい穂木の1芽を上向き・手前にして、その下を30~40度斜めに、スパッと削ります。
②反対側を、形成層(線状の薄緑色の部分)が見えるように削ります。削り終わり(下側)を水平にします。乾かないように注意してください。
台木:穂木との形成層が1か所以上合わさるように、台木を切り込みます。
③接ぎたい位置(高さ10㎝程度)で台木の上部を切ります。
④接ぎやすい平らな所を選び、バリを削り、上からまっすぐに切り込みます。
⑤穂木と台木の形成層を合わせ、テープを下からしっかり巻き上げます(隙間なければここまでもOK)。
⑥隙間があれば、穂木・台木の切口部分もテープを巻くか、ロウを塗るか、袋を被せて 密封します(組み合わせも可)。
⑦袋をかぶせた場合は、活着、芽の生長に合わせて、少しずつ順化させてください。枝の肥大に合わせて伸びる接木テープ・パラフィルムなら、その後の管理は不要です。
伸びないテープの場合、活着、生育に合わせて、食い込まないように、テープを少しずつ切ります。焦って切ると、乾燥で、枯れてしまいます。芽が出て、ちょっと遅すぎるくらいが丁度よいです。
不要な台木の枝や芽は、穂木の生育に合わせて外していきます。
⑧活着しなかった場合は、再度、台木として利用できます。台木から芽がたくさん出たときは、台木として使えるように、芽かき・枝かきします。
①穂木を斜めに削り、反対側を薄く削る
②台木を削る
③穂木と台木の形成層を合わせる
④接ぎ木テープをしたから巻き上げる
●ちょろっと一言●
レモンも挿し木繁殖できるようなことが書かれています。挑戦中です。
●ちょろっと一言 台木の特性●
よくある問題です。 「Q:台木の特性について、あなたの知るところを記せ」
A:矮性(リンゴ/M台、モモ/赤芽、カンキツ/カラタチ)、病害虫抵抗性(ブドウ/5BB、イチジク/励広台)、根量増大・耐乾・耐湿性(ナシ/ヤマナシ、モモ/払子)の付与などを主な目的に行われています。
台木の葉の色や形が穂木と異なることにより、容易に判別できるという利点もあります。形質が遺伝的に固定されていれば種子での移動や繁殖が可能で、容易に個体数を増加させることもできます。
挿し木など栄養繁殖できれば、形質の揃った台木生産ができます。さて何点頂けるでしょうか。もしかしたら、目的が違うかもしれませんね。
☆参考:例
接ぎ木の方法(モモの芽接ぎ:秋接ぎ)
<用意するもの>
・接ぎ木ナイフ:よく切れるもの、なければカッターナイフ
・テープ:接ぎ木テープ:巻きながら伸びるもの、なければこれに類するもの(例:パラフィルム、絶縁テープ(ビニールテープ)、レジ袋・ハウスビニールを2cm幅に切ったもの)
穂木:接ぎ木直前に採取、葉芽を利用します。葉っぱがあれば葉柄を残して切ります。
予め採取した場合や後々接ぎ木する場合には、この状態で、ビニール袋にいれて冷蔵庫(5℃)に保存します。
接ぎ木の時期は、8月下旬から10月中旬の、樹皮がペロリと捲れるころ、9月中下旬が最適です。
捲れないときは、捲ります。晴天・無風が適します。
<方法>
①使いたい穂木の1芽を、上(と下)から薄く削り取ります。
②台木にTの字の切り込みを入れ、樹皮を捲ります。捲れないときは、樹皮を削ります。
③穂木を台木に差し込みます。
④下からテープでしっかり巻き上げ、葉柄部分のみ、巻き込まないで、外に出しておきます。
⑤1週間前後で、活着すれば、葉柄がポトリと外れます。活着しないと、外れません。
⑥再度、行う場合は、これを繰り返します。接ぎ木に自信がない場合は、
:接ぎ木適期中に、2・3回行える計画にして、穂木を貯蔵しておきましょう。
⑦活着を確認したら、翌春、発芽に合わせて、テープを少しずつ外します。
枝の肥大に合わせて伸びる接ぎ木テープ・パラフィルムなら、その後の管理は不要です。
伸びないテープの場合、食い込まないように、テープを少しずつ切ってください。
不要な台木の枝や芽は、穂木の生育に合わせて外していきます。
⑧活着しなかった場合は、再度、台木として利用できます。
台木から芽が多く出たときは、台木として使えるように、芽かきしてください。
ポイントは穂木の形成層と台木の形成層(薄緑色の部分)同士を合わせることです